生活保護における扶養義務について慎重かつ冷静な対応を求める意見書 厚生労働大臣に提出!

2011年11月、生活保護受給者数が205万人を超え、2012年3月末には210万8096人(11カ月連続で増加)と、戦後の混乱期(1951年の受給者数:204万6千人)を上回る過去最多となっています。一方で、生活保護について扶養義務や不正受給にのみ焦点をあてて取り上げる論調が強まっています。
しかし、そもそも生活保護は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を権利として具体化したものであり、最後のセーフティネットです。さらに、1951年当時に比べ人口は1.5倍に増えており、利用率で比較すれば2.4%(1951年)から、1.6%(2012年)と減少しているのが実態です。生活保護を受ける資格(権利)のある人の利用率の低さ=行政の捕捉率の低さこそが、2012年に入ってから全国で起きている「餓死」「孤立死」を招いていると指摘しなければなりません。
こうした事態に、東京・生活者ネットワークは7月26日、小宮山厚生労働大臣を訪ね、「生活保護における扶養義務について慎重かつ冷静な対応を求める意見」を書面で提出。代表委員の西崎光子(都議会議員)ほか3名が、小宮山大臣との直接交渉に臨みました。

2012年7月26日
厚生労働大臣
小宮山 洋子 様

東京・生活者ネットワーク代表委員
西崎 光子
池座 俊子
大西由紀子

生活保護における扶養義務について慎重かつ冷静な対応を求める意見
厚生労働省の発表によると、2012年3月末の生活保護受給者数は210万8096人、11カ月連続増加で、この数字は、戦後の混乱期を上回り、過去最多を更新することになりました。
背景には、経済状況や高齢化に加え、東日本大震災の影響もあると言われており、個人や家族の努力だけで解決するものではありません。雇用状況の改善や制度改革として社会全体で取り組まなければならないものであり、現在、社会保障審議会では生活保護基準や生活困窮者支援のあり方について、専門家等の意見を聴きながら検討が進められています。
そのような中、芸能人の特異なケースを取り上げて、生活保護について扶養義務や不正受給についてのみに焦点をあてて取り上げる論調が強まっています。そもそも、生活保護法の中では、扶養義務者による扶養は保護の要件にはなっておらず、資産の状況により場合によって道義的な責任について問われる可能性はあったとしても、不正受給にはあたりません。
扶養義務については、民法上でも強い扶養義務を負うのは夫婦と未成熟の子に対する親だけであり、生活保護法では、この考え方に基づき扶養はあくまでも保護の優先要件です。
これは、先進諸国にならった制度であり、たとえばイギリスやフランス、スウェーデンでは、公的扶助の条件として扶養義務は優先要件にすらなっていません。ドイツでは親子間に扶養義務がありますが、その場合も10万ユーロ(約1200万円)を超える収入がある場合と明確な基準が設けられています。
日本では、現状でも優先要件に過ぎない扶養義務が前提要件であるかのように対応し、生活保護支給に至らず餓死事件にまで発展するようなケースが実際に起きており、感情論的な雰囲気のなかで生活保護をめぐる論調がつくられることを非常に危惧するものです。
家族の関係は一律のものではなく、虐待やDVなど過去の経緯から関係性を保てない場合もあり、親族間の扶助を前提とする福祉のあり方は先進国としてふさわしくないものです。多様な家族の関係性を無視する形で制度改正がされると、現状でさえ本来必要とされる人の2割程度しか利用できていない生活保護に関し、さらに申請そのものをためらう人が増え、貧困が悪化し孤立死や自殺が増加することが懸念されます。
さらに、新たに出された「社会保障制度改革推進法案」には、附則の二条に生活保護制度の見直しがあり、社会保障・税一体改革大綱における生活保護制度の見直しの記述に比べ、より給付抑制の方向性が濃く表現された内容になっています。経済状況、社会的背景など、実態を的確に把握せず、適正化だけを求めても、本来あるべき状況改善にはつながりません。
セーフティー・ネットとして、また、生活のありかたにも大きな影響を及ぼすことが考えられる生活保護制度への対応について、東京・生活者ネットワークは、以下のことを強く要望いたします。

1.正当な手続きを経て受給している当事者が不利益を被るような論調をつくらないよう、不正受給について正しい情報を提供すること。
2.扶養義務の要件に関わる運用について適正に行うよう関係機関に徹底すること。
3.生活保護のあり方については、慎重かつ冷静な議論を経て制度設計していくこと。
以上