生活者ネットワークは、伊方原発3号機の運転差し止め仮処分決定を歓迎します

生活者ネットワークは、伊方原発3号機の運転差し止め仮処分決定を歓迎します

四国電力伊方(いかた)原子力発電所

広島高等裁判所は12月13日、四国電力伊方原子力発電所3号機(愛媛県西宇和郡伊方町)の運転差し止めを決定した。東京・生活者ネットワークは、この仮処分決定を大いに歓迎するとともに、原発を保有するすべての電力関係者、政府・原子力規制委員会は、この決定を重く受け止め、原発再稼動政策を断念する契機とすべきではないか。

「被爆地ヒロシマのまちを再び放射能で汚染させてはならない」との思いから立ち上がった、伊方原発から約100キロ圏内に居住する広島市民、松山市民の皆さん、思いを共有する原告団、弁護団は、伊方原子力発電所の危険性や新規制基準のデタラメさを訴えて、広島地方裁判所に、伊方原発3号機の運転差し止めの仮処分を申請。しかし、広島地裁はこの申請を却下、これを不服として原告団、弁護団、住民らが抗告したものである。

ただ、今回の広島高裁の決定では、運転差し止め期間は2018年9月30日まで。仮処分決定にあたっては、特に火山事象の影響による危険性=約9万年前の阿蘇山の噴火では、火砕流が、現在の原発敷地内まで到達した可能性がある=について指摘、伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は(証拠調べの手続きに制約があるという事由から)不合理であるとした。であれば、同時に、原告団、弁護団らが強く主張してきた中央構造線に沿って立地している伊方原発の地震リスクをこそ問題視すべきであるが、この切迫した問題には触れずじまい。すなわち「新規制基準は合理的であり、伊方原発がこれに適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的である」とした、高裁判断もまた大いなる矛盾をはらんでいると指摘せざるをえない。

ともかく、「証拠調べの手続きに制約がある」という事由から、今回の仮処分=運転差し止め決定=は、係争中の広島地裁の訴訟に判断を委ねて期限を付けたかたちだ。しかし、住民らの生命・身体に危険を及ぼす(物理的)存在が事実上推定される、ことを根拠に仮処分決定に至ったのであればなおさら、伊方原発の危険は期限付きで解消できるものではなく、原発再稼動への道は閉ざされるべきである。

 

四国電力伊方原子力発電所3号機の具体的危険性について=生活者ネット=

1.  東京電力福島第一原子力発電所事故はいまだ収束せず、放射能汚染・高レベル汚染水、12万人にも上る被災避難者、被曝労働と、問題が山積しているのが福島の現実である。しかも過酷事故を引き起こした原因・要因の特定はもとより、十分な総括や反省がなされないまま今日に至っている。こうした事態に照らせば、四国電力伊方原子力発電所3号機は再稼働すべきでない。

2.  そもそも先の原子力規制委員会の審査合格は、規制委が自ら認めているように安全の保障ではない。東日本大震災以来、地震や火山活動が活発化している。ひとたび大地動乱が起これば、原発震災=原発過酷事故=を引き起こす原発再稼働は断じて避けるべきである。新規制基準では基準地震動の加速度を650ガルまで引き上げたが、他の原発において、基準地震動を上回る地震が過去10年間に5回も発生している事実に照らして、現状の基準地震動は、原発の耐震設計の基礎として、極めて不十分である。2007年に発生した新潟県中越沖地震(M6.8)での、柏崎刈羽原発1号炉での基準地震動に相当する解放基盤表面はぎとり波は1699ガルに達し、2008年岩手・宮城内陸地震(M7.2)では、それまで予測されていなかった活断層が動き、地表面で4022ガルを観測している。この事実に則して考察すれば、そもそも「中央構造線」至近に立地している伊方原発は、本来そこにあってはならない原発サイトである。

3.  瀬戸内海は、停滞性が強く極めて浅い海であることから、ひとたび伊方で重大きわまる原発事故が起きたら、海に直接降り注ぐ放射能、原発サイトから液体で流出する放射能の双方の汚染(プルトニウムの海底への沈着が大いに危惧される)はもとより、地表面へ降り注ぐセシウム134、137もまた川・湖を経て海を汚染し続け、瀬戸内海全域に壊滅的な被害をもたらすことになる。海流が一方向でなく、往復流であることも重なって、汚染の長期化は避けられない。太陽、月、そして地球の相互作用により形成される瀬戸内海の豊かさを台無しにしてしまう選択は、してはならないことである。複数の周辺府県・自治体に与える影響も計り知れず、広域に及ぶ環境汚染により、農・林・漁業労働を奪うことになる。この意味で、唯一内海に面して建つ伊方原発は、本来そこにあってはならない原発サイトであり、事故に至らなくても恒常的に海の汚染を引き起こす原発の再稼働は断念するべきである。

4.  伊方原発3号機は、ウランにプルトニウムを混ぜたMOX燃料を装荷するプルサーマル発電を採用している。ウラン燃料を前提に設計された原子炉でMOX燃料を使用することは、もともと危険な原発をさらに危険なものにすることからも、3号機の再稼働は断念するべきである。MOX燃料を入れた原子炉とウランだけを入れた原子炉とで、運転サイクルの最後の時点で存在するアクチニドの量を比較するとMOX炉心の方が5~22倍も多くなると指摘されている(MOX燃料のプルトニウムの存在に起因)。MOX炉心のアクチニドの量が大きいということは、重大な封じ込め機能喪失事故から生じる影響(急性死や潜在的ガン死)が、ウランだけを使った原子炉で同様の事故が起きた場合と比べ、ずっと大きくなる可能性があることを意味している。

5. 伊方原発が立地する佐田岬を含めた愛媛県の空は、米軍の管制下にある。1988年には原発ドーム至近800メートルの山腹に米軍の大型ヘリが激突、炎上し、乗員7人が死亡する大事故が起きている。しかし、米軍は地位協定を盾に事故報告書すら公表しないまま時が流れている。事故が多発する米軍ヘリ、オスプレイの国内配備と、岩国基地への飛来によって、米軍機墜落事故の危険性は一層強まることとなる。しかし、この問題が1~3号炉の安全審査では全く無視されていることを、深刻に受け止めるべきである。

6.  原子力規制委員会が定めた「原子力災害対策指針」では、従来、原子力災害対策重点区域として、 「原子力施設から半径5キロ」を目安として「予防的防護措置を準備する区域(PAZ)」を、「原子力施設から30キロ」を目安として「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)」を定め、かつ「UPZ範囲外であっても、その周辺を中心に防護措置が必要となる場合がある」「UPZ外においても防護措置の準備が必要となる場合がある」と定めていた。しかし、2015年4月22日に改定された同指針では、30キロの範囲外にかかる記述が削除されている。これでは、規制委をはじめとする政府関係機関は、原子力災害に真剣に向きあっているとは認められず、福島事故がもたらした広範にわたる被害現状と課題から何も学んでいないことになる。UPZ/PAZ圏内における避難時間を短縮する画期的な方法は見当たらず、とくに圏外とされた地域、自治体への事前・応急・中長期対策などに関する国などの支援にかかる記述がみられないままの原発再稼働は、百歩譲ってなお論外である。仮に原子力災害対策や避難計画が書面上充実したとしても、いざ事故になれば、整然とした避難など不可能であり、広範かつ甚大な被曝から免れないことは福島原発事故が実証している。 以上