はじめに

 2012年末、安定した政治と経済再生を期待する声に押されて再び政権の座についた安倍首相は、特定秘密保護法強行採決、集団的自衛権行使容認の閣議決定と数の力で押し切る政治姿勢を鮮明にしている。東京電力福島第一原発事故の原因究明も被災者支援も置き去りにしたまま、2014年4 月のエネルギー基本計画では、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、「安全が確認できた原発から再稼働する」と明記。原発輸出にも自ら陣頭に立ち、原発安全神話と経済優先の論理が再び押し進められようとしている。 
 立憲主義・平和主義・民主主義からなる国のあり方を根本から覆そうとする安倍政権の大暴走を喰い止め、いのちと生活を守る政治のあるべきかたちを取り戻すことが強く求められている。 そして、その第一歩となるのが来る統一地方選挙であることはいうまでもない。

  東京・生活者ネットワークは今年6月、2015 年統一地方選挙に向けて、基本政策作成のための議論を、4つの部会と政策委員会を軸に開始した。  
 現政権の経済施策への懸念が高まるなか、格差社会はますます進行し、子育て家庭の相対的貧困率16.3%、ひとり親家庭では50.8%(厚労省調査:2012 年)と、保護者の所得格差が子どもの貧困を生み出し、子どもたちの行く手を阻んでいる。すべての子どもを対象とする学び支援、 シングルマザー支援や非正規雇用・正規雇用の格差是正が急務となっている。生きづらさ、社会的困難を抱える若者への支援、障がいのある人もない人も共に学び、働き、暮らす「ソーシャル・ インクルージョン」を地域から実体化するために、さらに来る介護保険改正では、焦点となる「地域包括ケア」をどう構築していくのか、食、環境、放射能……生活課題は文字通り山積している。
   急激な少子高齢化と限られた財源の中、市民は自治体に対し、これまでのような受益者、傍観者ではいられない。地方政治が問われる今、「安心・共生・自治のまち」を実現に向けるために、 市民は、地域は、自治体は何をすればよいのか。どんなしくみが必要か。真剣な議論を重ね16の政策の柱のもと、2015 年統一地方選挙基本政策がまとめられた。
 
 「政治の主役は市民」。私たちは、まとめられた基本政策を実現に向けるために、いろいろな立場の、数多くの人に会い、生活する現場の声を聴き、情報を共有しながら、ともに地域のあり方、 かかわり方を考えていく市民自治を広げたいと思う。世代を超えて、知恵と力を出し合うワークショップがまちまちで行われ、豊かな地域社会が実現していくような、そういう自治あるまちづくりを東京から始めるために、2015年統一地方選挙に全力で臨む。

2014 年 10 月
東京・生活者ネットワーク

 

2015 年統一地方選挙 基本政策

政策の柱

大事なことは市民が決める
 ●子どもも親も一人にしない子育て支援をすすめる
  ●子どもが主役 すべての子どもの学びを保障する
   ●若者支援は地域でトータルに切れ目なく
    ●働く」 と「暮らす」 を共に分かち合う社会を
           -女性も男性も生活者-

すべての施策を男女平等の視点で見直す
  ●障がいのある人もない人も共に生きる
    「ソーシャル・インクルージョン」 のまちをつくる
   ●高齢になっても安心して自分らしく暮らし続けられる
             「地域包括ケア」のシステムをつくる
        ●食・農・いのちを育む  
       ●原発0(ゼロ)、エネルギーシフトで持続可能なまちをつくる

まちづくりは市民参加で
 ●減災、防災対策は、環境・福祉優先で
  ●住まいの確保は生活の最低条件
      貧困の連鎖を断ち、
                               希望をもって学び、働き、生活できる社会をつくる
           ●市民協働型の議会をつくる
             ●憲法を活かす
                人権・平和をまもる社会を地域からつくる

 

政策2015本文中「*1」〜「*50」参考資料

市民自治

大事なことは市民が決める

 自分たちのまちのことは自分たちで決める「自治」をすすめるために、私たちは、情報公開と、 市民参加や協働のしくみをつくってきた。今後、税収減や担い手不足などが急速にすすむ人口減少社会において、暮らしと、その安全性や質を守るには、暮らしの現場からの発想が重要となる。 国への依存度が根深い自治体の体質を変えるには、財源確保や地域の裁量枠の拡大*1を提案するとともに、主権者である市民が責任を持って参画し、合意形成するしくみがこれまで以上に必要となる。 

 経費削減だけを目的にした行財政改革は、地域をより疲弊させる。今や、自治体職員の3人に1人は非正規であり、長期間働いても社会保障に加入できない臨時職員、その多くは女性である *2。また、民間委託による新たな不安定雇用を生み出してはならない。市民が、自治体の事業について検証に関わるとともに、新しい公共の担い手として位置づくこともすすめていく。

  1. 地域分権をすすめ、市民主権を確立する
    ◎ 市民への適切かつ公正な情報提供・情報共有を行う
    ◎ 自治基本条例、住民投票条例を市民参加で制定し、市民主権を確立する
    ◎ 都市計画道路の点検・評価・整備方針策定、建物の高さ・景観・まちなみ・土地利用など地域の都市計画は市民参加で行う
    ◎ 地域主権改革による国や都からの権限移譲を活用し、生活・市民の視点から、地域の自主性・自立性による独自の基準をつくる
    ◎ 行政の説明責任を義務づけた総合的なパブリックコメント制度を確立する
     
  2. 市民参加型の行財政改革をすすめる
    ◎ 事業や予算の検証における市民参加のしくみをつくる
    ・ 予算編成過程を公開し、市民の意見を反映させるしくみをつくる
    ・ 施策の透明性・客観性を高めるために、市民参加の第三者機関による事業評価システムを 確立し、市民にわかりやすく公開する
    ・ 自治体の事業を市民参加で検証、自治体がやるべき仕事と地域にできる仕事を仕分ける
    ・ 老朽化している施設対策やインフラ整備計画の策定には防災の観点、次世代への負担などについて十分に検討する
    ・ 住民の参加・意思表明を保障する住民投票制度を活用する
    ・ 市民との合意形成は「対話型行政」(情報公開と市民参画による双方向性)ですすめる
    ◎ 地域から、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)*3 を実現する
    ・ 総合評価入札制度を導入し、最低賃金の保障、環境への配慮、男女平等や障がい者の雇用率などを考慮して指定業者を選定する
    ・ ライフスタイルに合わせた働き方を保障するためにワークシェアをすすめ、短時間公務員の制度 *4 を拡充する
    ・ 新たな公共サービスの担い手となる NPO や市民事業をコミュニティビジネスとして位置づけ、地域の仕事・雇用につなげる 
    ◎ 行財政改革をすすめる
    ・ 特別職の退職金を廃止する ・ 自治体職員の天下りをなくす 

 

子育て

子どもも親も一人にしない子育て支援をすすめる

 少子化が社会問題とされながら、子育てをめぐるしくみや社会状況は改善されていない。子育て新制度 *5 が、2015 年度から各自治体のしくみとしてスタート、社会保障制度へ子育て分野が 位置づいた意義は大きいが、財源確保も危うい状況で、私たちが求めてきた「子育て・介護は社 会のしごと」を実現するには程遠い様相を呈している。子育ての実態に向き合い、子どもの人権の視点で、導入後の検証と制度改善が不可欠である。また、情報ばかりが溢れ、人と人とのつな がりをつくりにくい地域社会の中で「子育て」は「孤育て」となり、児童虐待 *6 をはじめ、深刻さは増す一方。環境問題も本質的に改善されず、原発事故による放射能汚染と長期間向き合うのは子どもたちだ *7。
 
 子どもは経済社会のお荷物でも、消費を促す存在でも、大人社会を支える存在でもなく、一人ひとりがかけがえのない「いのち」だ。大人自身を育てる双方向の経験であり、社会の未来を切り拓く営みである「子育て」を社会全体で支える、そのしくみを地域でつくる。

  1. 保育の質・環境の向上や人材確保など、すべての子ども施策において、子どもの最善の利益を保障する
    ◎ 待機児解消だけを目的にせず、保育の質・環境を向上させる
    ◎ 放課後児童クラブは、「子どもの権利」を守り、子ども自身が選べる環境整備を行う ◎ 子育て支援に関わる人材確保・育成をすすめる
  2. 子育ち・子育てを地域で支え合うしくみをつくる
    ◎ NPO や市民事業による地域の多様な小規模保育を支援する
    ◎ 社会的養護(家庭的養護)が必要な子どもへの専門的ケアを拡充し、社会に出た後の困難に対しても継続した支援体制をつくる
  3. 出産前から一人ひとりの SOS を受け止めるしくみを地域でつくり、虐待を未然に防ぐ
  4. 空き家活用や子ども参加で、地域に子どものための多様な「居場所」 をつくる
    ◎ 放課後対策は、子どもの最善の利益を保障するための質の確保・向上を図る
    ◎ 安全性を確保した上で、地域に多様な居場所を保障する ◎「共生・共育」の視点で、障がいのある子どもを受け入れるための施策(受け入れ加算の増額や施設整備、研修の充実など)を行う
  5. 遊びは学び。生きる力を育てるプレーパークを常設にし、子どもの育ちを応援する

教育 ・ 学校

子どもが主役 すべての子どもの学びを保障する

 安倍政権の「教育再生」 *8 は、教育への自治体の長の関与を強める改正地方教育行政法 *9 の 制定、教科書の検定基準などの見直し *10、道徳の教科化の検討 *11 など、私たちが危惧する方 向にすすんでいる。確かに教育の抱える課題は山積しているが、国の関与を強める中央集権的な発想では、何も解決しない。

 大津市や品川区のいじめ事件を契機に法律や条例が制定されたが *12、いじめの捉え方が表層的であり、国や都の介入強化、厳罰化の方向も懸念される。いじめは権利侵害であることを踏まえた、子ども主体の「いじめ防止」対策でなければ本質的な改善にはつながらない。子どもからのSOS に対応する公的な第三者機関による相談・救済体制の確立が急務だ。

 不登校の子どもたちも依然増加傾向にあり *13、国も、フリースクールなどの民間の活動に注目、 学習等における支援方法について検討が始まった *14。動向に注視が必要である。

 また、障がい者制度改革の一環で「インクルーシブ教育」*15 が位置づけられたが、課題も多く、 障がいのある子どもたちのための、合理的配慮や環境整備の実体化が求められる。

 大人の都合で子どもの世界に立ち入ることなく、子どもの人権、子どもの権利が息づき、障がいがあってもなくても、国籍が違っても、男女の区別なく、豊かに学び合う真のインクルーシブ教育を、地域から実現する。

  1. 子ども主体・子ども参加で、子どものための「いじめ防止対策」をすすめ、厳罰強化ではなく、子どもがエンパワメントできるような実践的なプログラムを導入する(いじめ防止プロ グラムなど)
  2. 学校に行けない・行かない子どもたちに、多様な学びの場を保障する
  3. 障がいのある子どもや外国籍の子どもと共に学び、共に育つ真のインクルーシブ教育を実現する
  4. 一斉授業ではなく、個を大切にする教育体制に改善し、子どもと向き合う人員を増やす
  5. 実践的な平和教育、人権教育、環境教育、労働教育、性教育、シティズンシップ教育、メディアリテラシー(メディアの情報を取捨選択して活用する)教育 *16 をすすめる
  6. 市民に開かれた教育委員会にする (7)子どもの最善の利益と子ども参加を保障する「子どもの権利条例」をつくる
  7. 子どもの最善の利益と子ども参加を保障する「子どもの権利条例」をつくる

若者

若者支援は地域でトータルに切れ目なく

 全国で、ニートは 60 万人、ひきこもり 70 万人、フリーターは 182 万人 *17、生きづらさ・ 社会的困難を抱える若者の数は増える一方だ。国の事業として「若者サポートステーション」*18 における就労支援が始まったものの、ハローワーク同様、就労実績数などが国からの補助金の算 定基準として問われるしくみには課題も残る。

 一方で、就職できたとしても、企業側が労働者を人権侵害に近い条件・待遇で働かせるいわゆ る “ ブラック企業 ”*19 が社会問題化している。正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働い ている若者が多い現状 *20 も、早期に改善されるべきだ。

 憲法や子どもの権利条約の理念に即し、若者の包括的支援のしくみをめざして制定された「子ども・若者育成支援推進法」だが、国会では「青少年健全育成」に逆戻りさせようとする提案 *21 など、危惧される動きも続いている。

 若者が希望を持って働き、社会に参画していくためには、総合的・横断的な施策で、一人ひとりの実情に即した自立支援のしくみを、地域において実現させることが必要である。

  1. 相談から自立支援まで、生きづらさ・困難を抱える若者を一貫して、一人ひとりの実情に即 して支援するパーソナルサポートのしくみをつくる
  2. 就労や起業支援(コミュニティビジネス)、住まいへの支援など、若者が希望を持って働き、 生活できる多様なしくみを地域でつくる
    ◎ 空き家活用で、一人暮らしやルームシェアを可能にする住宅政策をすすめる
    ◎ 若者の就労支援につながる教育・研修を実施する
  3. いつでも・どこでも・だれにでも、学ぶ機会を保障する教育システム(リカレント教育)を実践する
  4. 横断的・アウトリーチ型の支援策で、若者を孤立させない
  5. 人権と命の視点で、こころと身体を守るための健康教育をすすめる(精神疾患、性感染症、HIV、危険ドラッグ)
  6. 働く人の権利についての知識を身につけるキャリア教育 *22 を学校で行う

労働

「働く」 と「暮らす」 を共に分かち合う社会を
-女性も男性も生活者-

 女性も男性もいきいきと働き暮らせる地域社会をつくるためには男女平等参画の視点が欠かせない。妊娠 ・ 出産によって、仕事をあきらめざるを得なかったり、子育てのための充分な時間が 取れないような働き方を強いられるようでは、女性が真の意味で活躍できる社会は実現しない。

 一方、若者や男性にとっても、この間ブラック企業の問題や過労によるメンタル疾患や突然死 など、働く環境が苛酷なことによる問題が噴出している。男性もまた子育てや介護、地域活動や 余暇活動に関わりながら自分らしく暮らせる働き方が求められている。 

 性別によって役割を分担するのでなく、一人ひとりが働くことと暮らしを生活者の視点でバラ ンスよくこなしていけるよう政策実現をめざす。

  1. 働く人の立場から新しいワークルールをつくり、人間らしく自分らしい生活ができる労働条 件を整備する
    ◎ 同一価値労働同一賃金の原則で雇用条件を整備する
    ◎ ワークシェアを実現し長時間労働をなくす
    ◎ 妊娠や出産、子育てや育児をしながら働き続けることができる職場環境を整備する
    ◎ 働く場での男女平等を実現し、女性の管理職を増やす
    ◎ 公共サービスに関わって働く人の賃金や労働条件を保障するため、地域で公契約条例の制定をすすめる
    ◎ 多様な働き方に対応できる年金一元化など、社会保障制度の改革をすすめる
  2. 地域に必要な機能をつくるコミュニティビジネスへの支援など、新しい働き方を創造する
    ◎ コミュニティビジネスや事業型 NPO などを支援する
    ◎ 起業のための研修や講座を充実させる
    ◎ ワーカーズ・コレクティブを運営しやすくするよう協同労働法を創設、雇用されない働き方を広げる
    ◎ 地域にワーキングスペースを創り、個人事業を応援し交流の場を提供する
  3. 働きたい人が働けるしくみをつくる
    ◎ 講座や託児など女性の再就職支援を充実させる
    ◎ 若者への再チャレンジの機会を保障し、自立を支援する
    ◎ 高齢者や障がい者が働く場を地域でつくる
  4. 子育て・介護と仕事が両立するしくみをつくる
    ◎ 保育園や学童クラブなど子育てと仕事を両立するための支援を充実させる 
    ◎ 介護する家族の支援としての介護サービスを充実させる
    ◎ 子育てや介護の時期に早く帰ることのできる労働環境の整備を求める
  5. シングルマザーへの経済支援と就労支援を充実し、子どもの貧困をなくす
    ◎ 就労のための情報提供や保育などの支援を充実させる
    ◎ 保育料や公営住宅料など生活に必要な公共料金に、みなし寡婦控除を適応する
  6. 仕事に関する悩みを地域で解消する
    ◎ 働く人が気軽に相談でき、ワンストップで支援できる場所を地域につくる
    ◎ 働く人の権利についての知識を身につけるキャリア教育を学校で行う
  7. ワーク・ライフ・バランス *23 を実現する
    ◎ 子育てや介護と仕事の両立など女性が働きやすい環境づくりに力を入れている企業を表彰する 
    ◎ 女性だけでなく男性も育児休暇や介護休暇を取得しやすい環境をつくる
    ◎ 地域活動に、働く現役世代の男性も参加することを推奨する
    ◎ 家庭の中で家事を分かちあえるよう「男は仕事、女は家庭」の意識をなくす啓発を行う 

女性

すべての施策を男女平等の視点で見直す

 安倍政権は三本目の矢「成長戦略」*24 の中に「女性の活躍推進」を掲げた。しかし、人材不 足が懸念される保育分野に「子育ての経験等を生かした女性の配置」を提示するなど、女性を経 済的な観点からのみ「活用」することで経済成長もすすめるという考え方が根底に見え隠れして いる。

 さらに、セクシャルハラスメントのヤジが大きな問題となった都議会、また、企業広告を巡り「家事ハラスメント」の言葉の意味のすり替え問題 *25 が起きるなど、「男は仕事、女は家庭」と いう役割分業意識は根強い。DV 被害や売買春など、人権侵害被害や女性や子どもが貧困に追い 込まれる現実、さらに、シングルマザーの約 50%が貧困、そして 6 人に一人の子どもが貧困と いう実態も看過できない問題である。社会の制度や認識はまだまだ不足している。震災時の避難 所運営における「女性の視点の欠如」も、残念ながら日常の課題が縮図となって表出したものと 言えよう。

 家族のかたちや子どものあるなしに関わらず、だれもが自分らしく地域で暮らし、女性が一生 を通して真に輝くためにも、施策のあり方を点検し、男女平等参画を実現するよう改善する。

  1. 学校教育・社会教育のあらゆる場面で、人権や男女平等の視点を徹底し、生きていく力をつ ける教育を行う
    ◎ 労働、社会保障など中学校の教育の中でシティズンシップ教育をすすめる
    ◎ 自分の命の大切さを知り、命の尊厳を守ることを学ぶ性教育をすすめる
    ◎ ライフサイクルを通し、妊娠・出産・不妊、性感染、HIV /エイズ、性暴力、売買春、女性特有の病気など必要な知識について、学校教育などあらゆる場で周知する
    ◎ 学校教育の中での人権教育に力を入れる。とくに予防教育とその時期が大切なことから、中学校の教育の中で、デート DV 防止に向けたプログラムを NPO など市民団体と連携し、実施する
    ◎ 性的マイノリティ(LGBT)への偏見や差別をなくすための学習をすすめる
  2. 議会における性差別をなくす
  3. リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(生涯を通じた性の健康と権利)の視点に立った医療と教育をすすめる
    ◎ HPV(子宮頸がん)ワクチンは中止とし、副反応の原因究明や被害者救済をすすめる
    ◎ 乳がんや子宮頸がんに関する情報を周知・徹底し、女性が検診を受けやすい制度や環境を整える
    ◎ 高次医療機関、産科医、助産師の役割を明確にし、余裕ある産科現場を確保し、病院、診療所、助産所、自宅分娩など、女性がそれぞれ望むお産が選択できるしくみをつくる
  4. DV 防止対策を充実させるとともに、被害者に対しては、民間と連携をはかりながら、総合的自立支援対策をすすめる
    ◎ DV 被害に迅速に対応するため、庁内で横断的なシートをつくり、ワンストップ化をはかる
    ◎ 一貫した総合的な自立支援が行える DV およびデートDV 相談センターを設置する
    ◎ DV およびデート DV 被害者のシェルターの充実に向けた支援を行う
    ◎ 加害者への相談支援を確立し、更生プログラムを実施するなど、加害者へのサポートを充実する
  5. 災害時の避難所運営や復興支援を、男女共同参画の視点ですすめ、人権に配慮した避難所運営を行う
    ◎ 防災会議、地域防災計画・マニュアル策定における女性の参画をすすめる。備蓄物資などに女性の視点を取り入れていく
    ◎ 避難所運営、地域復興活動に男女のリーダーを置く。また、平常時からの男女や子どもも参画した、男女の役割を固定しない地域防災力の向上をめざす
    ◎ 災害時におきやすい性犯罪を防ぐために、助産師・保健師・看護師などによる巡回相談を実施し、必要な対応が迅速にとれるようにする
    ◎ 女性、子どもが気軽に相談ができる窓口・スペースの設置やカウンセラーなどを配置する。女性が男性職員に相談しづらいこともあるため、女性職員も配置する。また、その周知をする
  6. 市民参加で男女平等条例をつくる
  7. 自治体の男女平等施策に、市民による第三者評価や専門的知見を取り入れ、実効性を高める
  8. 行政の意志決定の場に女性を増やし、生活者の視点を施策に反映させる
    ◎ 庁議など自治体の重要決定期間に参画する女性管理職登用 *26 をすすめる
    ◎ 審議会など附属機関における女性参画をすすめる 
  9. 性的マイノリティ(LGBT)当事者が暮らしやすいまちをつくる

障がい者

障がいのある人もない人も共に生きる
「ソーシャル ・ インクルージョン」のまちをつくる

 国は、2012 年に「基本的人権を享有する個人としての尊厳」を理念に障害者総合支援法を制定し、2013 年 4 月から障害者優先調達推進法を施行、2014 年 1 月 20 日には障害者権利条約 を批准した。条約批准に向けた体制整備(障がい者制度改革)における具体的な個別分野につい ては、当初の目標からかなり後退し、先送りされた課題も少なくないが、差別禁止、雇用促進など、 理念としてのソーシャル・インクルージョンを後戻りさせてはならない。学校教育では共に学び、 就労の機会をすすめ、だれもが地域で暮らすことをすすめる、その実態をつくることが重要だ。

 精神障がい者の退院促進については、病院資源を居住の場として活用するのではなく、本来あ るべき「地域移行」をすすめる必要がある。「すべての人を包摂する社会」(ソーシャル・インク ルージョン)の実現に向けた支援体制をどうつくるか、まさに地域が問われる課題である。

  1. 障がい者権利条約に基づき、障がい者権利条例の制定をすすめる
    ◎ 障がいを理由とした差別の実態に向き合い、合理的配慮についても、当事者参加で検討・検証する
  2. 互いに尊重され認め合う社会の実現に向け、成年後見、市民後見など、一人ひとりの権利を擁護するための支援体制 *27 を充実させる
    ◎ 親族や本人の申し立てにも利用できるよう、成年後見人に対する報酬助成制度の運用を拡充する
    ◎ 市民後見人を増やすため、自治体での継続的な研修の機会を広げ、支援体制をつくる
  3. 自治体が障がい者雇用の実践モデルを示し、一般企業に雇用拡大がすすむよう促進する 
    ◎ ジョブコーチや介助者のしくみ、コミュニケーション支援をすすめる
  4. 障がいのある人もない人も対等な立場で共に働く「社会的事業所」*28 をつくる
  5. 精神障がい者の施設・病院から地域への移行をすすめる際には、障がい者権利条約の趣旨を踏まえ、施設敷地内ではなく、地域における受け皿としての居住と支援体制を保障する *29
    ◎ 地域に多様な支援のしくみを確保する
    ◎ だれもが自立して暮らすための住まいの保証人制度の充実を図る
  6. 移動困難者の「移動」を保障、安心して外出できる環境を整え、社会参加を促す
  7. 訪問型支援(アウトリーチ型)の体制づくりをすすめ、包括的に生活支援と医療の連携支援体制をつくる

医療・介護

高齢になっても安心して自分らしく暮らし続けられる
「地域包括ケア」のシステムをつくる

 医療・介護総合確保法 *30 が制定され、介護分野が施行される 2015 年度は介護保険制度の大きな転換の年になる。介護保険は、介護を社会化し、地域で尊厳をもって、その人らしく暮らすためのしくみとして導入された。「制度の持続可能性」だけが前面に出され、自己選択、自己決定の理念を阻害するような制度改定は問題であり、是正に向けた提案を地域から発信しなければならない。また、介 護は、本人と同時に、家族も当事者である。「在宅」を支える中間機能や医療との連携、認知症対策 などは緊急に取り組まなければならず、「遠距離介護」も切実な問題となっている。

 財源不足を言い訳に、国の指示どおりにすすめるのか、必要な財源を求めつつも、安心して暮らし 続けられるために必要な機能としての「地域包括ケア」のしくみとするのか、自治体も問われている。 例えば、小規模の通所機能に、学童クラブ、子育てカフェ、訪問看護ステーションなどを併設、地域に あった複合型施設をつくる、また、保健(暮らしの保健室 *31)、予防(コミュニティ・レストラン)、相談(まちの縁側)など、多機能なプラットホームで、地域の安心とマンパワーをつくるなど、これまでの制 度の枠組みにとらわれない、地域に必要な機能をまず市民が構想することが必要だ *32。“ 本人と家族 に地域が寄り添う” 地域包括ケアシステムにするために、生活の現場からの提案をつづけよう。

  1. 住み慣れた地域で自立した日常生活を営むことができるよう、医療・介護・介護予防・住まい・生活支 援などのサービスを一体的に提供する「地域福祉(地域包括ケア)」のシステムを構築する
  2. 改正されるたびに複雑になる「介護保険制度」について、国に対し改善を求めるとともに、保険者として も市民にわかりやすく説明、特に「介護の社会化」や「利用者の自己決定の権利」などの理念を明記する
  3. 地域の拠点として地域包括支援センターの機能を拡充、人材確保・多職種連携 *33 で、さまざまな困難事例や多問題家庭へも対応できる体制を整備する
  4. 在宅での緩和ケア、看取りも含め、在宅医療を推進する
    ◎ 在宅療養者の後方ベッドの確保や、24 時間在宅医療提供体制の構築をすすめる
    ◎ 身近な地域に、医療の相談支援の場所「暮らしの保健室」をつくる
  5. 徘徊模擬訓練などを行い、認知症になっても安心して暮らせるまちをつくる(認知症になっても地域で支えるしくみを構築する)
  6. 在宅療養者の後方支援ベッドや、ショートステイ・ミドルステイなどを充実させ、介護家族のレスパイトに対応できる体制をつくる *34
  7. 「介護予防・日常生活支援総合事業」については、財源や基準、さらに自己決定の課題などを指摘・改善させる。さらに、市民参加で地域の実情に合ったしくみを構築、必要なニーズ切捨てや、安易なボランティア論、家族介護への後退にならないよう、充分に検証する
  8. 空き家や空き地を活用し、市民が、居場所としてのまちの縁側(コミュニティ・ カフェ)をつくるしくみを構築、そのための情報収集と利用推進のためのファシリテーター派遣や賃借の仲介、家賃補助など、 市民活動・市民事業を応援する

食の安全

食・農・いのちを育む

 私たちはこれまで一貫して食の安全にこだわり、都市農業の保全を政策に掲げてきた。しかし、 食のグローバル化がすすむ中、遺伝子組み換えや輸入食品をめぐる残留農薬等の問題など、食の 安全を脅かす事件は後を絶たない。さらに、多国籍企業による政治・経済の支配につながる TPP(環 太平洋戦略的経済連携協定)への参加は、国内の農林水産業への大きな打撃が予想される。原発事故による高濃度汚染水による環境への影響も、長期的な対策が必要だ。

 食べることは生きることそのもの。ダイエット・カロリーオーバー・子どもや高齢者の孤食・ 遺伝子組み換え食品・フードマイレージ・フェアトレードなど、食卓からさかのぼって生産地に至るまで、食に関する課題は多岐にわたる。子どもたちが食べものを選ぶ力を養い、単に食欲を満たすだけでない心と体を健やかに育む食習慣の形成に寄与する食育、また身近な生産地である 都市農業を保全し地産地消をすすめることが重要である。

  1. 公給食の食材に、遺伝子組み換え食品を使わない。農薬使用(ポストハーベスト含む)・添 加物利用をなくす
  2. 学校給食と学校農園などの活用で、食農共育をすすめる
    ◎ 食材を選択し、調理する能力を身につける
    ◎ フードマイレージ、フェアトレードなど、食を巡る状況を地球規模で考えられる教育をすすめる
    ◎ 給食にかける時間を減らさない
    ◎ 学校給食のあり方について、保護者や子どもたちの意見反映のしくみ *35 をつくる
  3. 地産地消をすすめ、都市農業と農地を守る
    ◎ 援農などで、担い手確保のしくみにつなげる
    ◎ 農地を活用するしくみをつくる *36
    ◎ 都市農業について、減災や雨水涵養などの多面的価値を評価する
    ◎ 障がい者の就労・活動の場として、福祉施策としても活用する
  4. 食品の検査体制の強化、表示の義務化など、情報公開を基本に、食の安全を確保する
  5. 放射能汚染への対策を検証し、継続する
  6. 長期休暇中の学童保育にも安心・安全な給食を提供する
  7. 食を核にした地域支援の拠点「コミュニティ ・ ダイニング(レストラン)」 *37 をつくる

環境・エネルギー

原発 0(ゼロ)、
エネルギーシフトで持続可能なまちをつくる

 安倍政権は 2014年4月のエネルギー基本計画の中で、原発を重要なベースロード電源として位置づけ、前政権の「30年以内に原発ゼロ」を反故にした。実効ある避難計画もなく、ただなし崩し的に再稼働をすすめようとし、さらに海外への原発輸出 *38 など、原発事故の経験を無にする政策を打ち出している。各種の世論調査において「慎重であるべき」が過半数を占め続ける中、世論を置き去りにした判断の異様さが目立っている。

 一方、東京電力福島原発事故以来、エネルギー施策について多くの市民が考え、行動するようになった。原発がないと停電する、再生可能エネルギーは割高、とされてきた神話が真実でない ことも明らかになった。省エネやエネルギーシフトに加え、エネルギーを地域内で自ら生み出す エネルギーの地産地消もすすめなければならない。

 環境省・経産省による容リ法見直し合同会合 *39 では、現在集中審議がすすんでおり、年内には取りまとめの予定。社会全体でごみ処理経費を削減するための法改正が待たれる。地域でも容器の店頭回収やごみ減量をすすめ、持続可能なまちづくりに一層取り組んでいく。

  1. 脱石油・脱原子力(原発 0)で、再生可能エネルギーへシフトする
  2. 地域の実情に合った、 小規模市民電力発電所、 節電所、省エネ改修、熱利用などをすすめる *40
  3. 公共施設等総合管理計画の策定に合わせ、施設建て替えと維持の際に、環境性能(省エネ・アスベストなどの化学物質対策を子ども基準で)を向上させる
  4. 雨水の地下浸透・循環利用をすすめる
  5. 水循環の確保・緑地保全を優先したまちづくりをすすめる
  6. 多様な生物が生息できる環境を保全する
  7. 風の道、ヒートアイランド対策に配慮したまちづくりをすすめる
  8. 2R(リデュース・リユース)をすすめ、拡大生産者責任の理念をごみ処理経費負担に反映させる
  9. ごみ減量と CO2 削減に取り組み、温暖化防止をすすめる
  10. 電磁波が健康に与える影響について学ぶ機会を増やす

都市計画

まちづくりは市民参加で

 昭和50年代をピークに建設された公共施設群が、更新時期を迎え、建て替え・長寿命化・多機能化・統廃合など、地域の利害関係調整を要する困難な課題をすべての自治体が共有している。 施設の持つ価値を、総合的な観点(安全・防災・景観・環境・利用度・コストなど)で評価できるのは市民である。十分な情報提供を保障し、市民が発言できる場を増やし、まちづくりへの参 画を広げなければならない。

 都市計画道路第4次事業化計画 *41の策定中であるが、優先整備路線の選定など策定過程の情報公開はきわめて不十分であり、市民意見を反映する制度が定められていない。みちづくりへの市民参画を標準化していかなければならない。さらに、都市計画にサンセット方式を導入、今後の人口減少社会を見据え、大規模開発や都市計画道路については、市民参加で検証、計画廃止も 含め大胆に見直すしくみが必要である。

  1. 都市計画道路の点検・評価・整備方針、建物の高さ・景観・まちなみ・土地利用など、地域 の都市計画について、市民意見が尊重され、参画できるしくみをつくる
  2. 森-里山-公園-農地-緑地などをつなげた緑のネットワークをつくる
  3. 環境負荷が低い自転車の利用促進や、公共交通の充実を図る

防災・減災

減災、防災対策は、環境・福祉優先で

 近年、集中降雨(ゲリラ豪雨)、突風(竜巻)、土砂崩れなど、これまであまり経験したことのない災害の発生が多発している。背景には、地球規模の気候変動や、都市近郊における無理な開発があることは明らかである。国は「防災・減災等に資する国土強靱化基本法」を制定したが、 そこには、経済を最優先に便利な暮らしを追い求めてきたことへの反省もなく、温暖化も含め、水みちの分断や樹木を伐採し続けたことによる環境負荷を考慮する視点もない。

 また、地域防災力強化の方向性として、ことさらに「共助による地域防災力の強化」を強調する傾向にある(2014年版防災白書)。言うまでもなく、地域コミュニティによる助け合いは必要だが、自治体の責任を「自助・共助」にすり替えることのないよう、ボトムアップで地域から 防災・減災対策をすすめるべきである。

 私たちは、防災政策へ女性・子どもの視点を活かすことを主張、災害対策基本法や防災基本計画の見直し*42において、一定程度実現してきた。今後も、女性、子ども、障がい者、高齢者の 視点などを活かすとともに、そのための日常的な対策を提案していく。

  1. 環境・福祉優先の視点で、建築確認事務(建築指導、開発指導)を充実させる
  2. ハザードマップ(洪水・内水・高潮・土砂災害など)の積極的公表や、「古地名呼称」など の活用で、土地が潜在的に持っている特徴を再認識し、災害の危険性を含む土地への危機感や防災意識の向上を図る
  3. 防災の視点からも、雨水浸透をすすめる
  4. 雪害、液状化、高層建築物(エレベーター)など、地域の独自課題に向き合い、地域防災計画に盛り込む
  5. 災害時の避難所運営、地域復興活動に男女のリーダーを置くとともに、女性、子ども、高齢者、障がい者などに配慮する視点を、日常的な活動や訓練にも活かす

住まい

住まいの確保は生活の最低条件

 住宅数も空き家数も増加傾向にあるが、その一方で、住宅困窮者は、低所得者だけでなく、若者、シングルマザーなど多様な人々に広がっている。ネットカフェ難民に象徴されるように、若者世代を中心とした、定住する住居がないために就職できない悪循環、高齢者、障がい者、単身女性、 外国籍住民など、保証人が見つからないために民間賃貸住宅への入居が困難となっている状況など、安定した生活基盤のためには住まいの確保が課題である。生活困窮者自立支援法*43の制定に向けた議論でも、従来の施策では単身の若年低所得者は住宅施策の主な対象になってこなかったことや、無届け施設の増加など “ 貧困ビジネス ” への対応が必要などとの指摘がされた。賃貸住宅への入居保証や空き家活用など、行政が関わることで、「居住の確保」をすすめることが必要だ。

 私たちは、これまでも「住まいの確保は生活の最低条件」として、住まいについて横断的に提案してきた。今後の人口減少社会を見据えるとともに、地域で「共に」働き、学び、暮らすため、 障がい者、高齢者、子ども、若者など、多世代が集うことができる住まいづくりをすすめることが、自発的なコミュニティ(互助・共助)につながっていく。

  1. コーポラティブハウス、コレクティブハウスなど、多世代が共に暮らす多様な住まいを増やす
  2. 住宅困窮者への入居保証、家賃補助制度をつくる
  3. 市民による「空き家活用」を応援する
    ◎ 空き家、空き地の調査活動や有効活用に向け、専門家を派遣する
    ◎ 修繕、改築費用や家賃補助、情報収集・発信のしくみをつくる 
    ◎ 若者が活用しやすいシェアハウスをつくる 

貧困

貧困の連鎖を断ち、
希望をもって学び、働き、生活できる社会をつくる

 効率優先の経済システム、労働市場の変化などを背景に、所得格差は拡大、貧困問題は限られた人だけの問題ではなくなっている。子どもの貧困率は 16%を超え*44、公立小学校では7人に一人、中学校では6人に一人が就学援助世帯となっている社会状況の中で、政府はようやく重い腰をあげて対策に乗り出し始めたが *45、実効性のある施策には至っていない。さらに、日本は、教育にかかる費用が高額であるとともに、国による給付型の奨学金がなく貸与型のみ、そ のうち約4分の3が有利子奨学金である。全国の大学生のおよそ半分が奨学金を借りている現状がある中で、奨学金の返済に苦慮する若者の問題が指摘されている*46。

 非正規雇用の拡大とともに、正社員あるいは正社員並みにフルタイムで働いてもギリギリの生活さえ維持が困難である「ワーキングプア」の問題も深刻だ。

 生活困窮者自立支援法が2015年4月から施行となるが、制度としての課題も多く残されている現状では、それらを指摘、生活保護制度も合わせて、是正することが必要である。一方で、自治体のしくみとして、より良いものとしていかなければならない。貧困の連鎖を断ち、学び直し、やり直しができる社会(リカレントな社会)をめざすため、実態に基づき、地域でできる施 策を積極的にすすめていく。

  1. 学び直し、やり直しができる「リカレントな社会」をめざし、自治体として横断的な支援のしくみをつくる
  2. 貧困による教育格差をなくすため、教育と福祉の連携で、学校や地域での教育サポート、生活サポートをすすめる
  3. 給付型奨学金制度の創設や、就職難や低賃金により、奨学金の返済に困難をきたしている人 に対する救済制度を国に対し提案する
  4. 生活困窮者などが多問題の解決が図れるよう、ケースワーカー一人あたりの担当人数を減らし、体制の強化を図る
  5. 伴走型支援を強化するため、自立支援を促す支援者への研修の充実や受け入れ事業者を増やす

 

議会改革

市民協働型の議会をつくる

 これからの自治体は、人口減少を前提とし、社会の質をどう高めるかが問われていく。そのためには地域ごとに自ら考え、決定していく自治の力が必要だ。自治の基礎はあくまで直接民主制であり、二元代表制を十分に機能させるための議会への市民の参加や、議会の調査機能を強化するとともに、議員間の十分な議論を行い、立法機能を拡充させる必要がある。

 また、議会のしくみの透明性を図り、市民との信頼関係を構築しなければならない。

 都議会でのセクハラ野次発言やその後の対応が注目を集めたが、議会における男女平等参画は 特に遅れており、背景には、女性議員が圧倒的に少数という実情がある。政治分野における女性 参画の拡大は多様な民意の反映のためにも不可欠であり、これまで私たちは、その必要性を主張、自ら実践を積み重ねてきた。ポジティブ・アクションとしてのクオータ制*47の導入など、制度面の改善も視野に入れ、議会の運営改善を図る必要がある。

  1. 議会にこそ、市民参加をすすめる
    ◎ 請願・陳情を市民による政策提案と位置づけ、審議においては、提案者の意見を聴く機会を設ける
    ◎ 傍聴者の意見を聴く機会を設けるなど、傍聴意欲を高める議会運営を行う
  2. 議会基本条例を制定し、活用する
    ◎ 議員どうしが十分に議論する議会にする
    ◎ 議員の人権侵害のおそれのある行為の禁止を明確にする 
    ◎ 多様な市民の意見を反映するため、議員定数は削減しない 
    ◎ 市民と議会が政策提案できるような協働をめざす
  3. 議会の情報を積極的に広報するとともに、市民意見を広聴する
    ◎ 積極的に議会の情報を公開する
    ◎ すべての会議は原則公開とし、インターネット中継を活用する
    ◎ 議会報告会など説明責任を果たすとともに市民との意見交換の場を設ける 
    ◎ 政務活動費は領収証だけでなく、使途を公開し、市民への説明責任を果たす
  4. 行政から独立した議会事務局をつくる
    ◎ 政策立案や法制上の検討、調査機能を高めるために職員を雇用、育成し、自治体議会連合体の取り組みも検討する
  5. 議会のしくみの透明性を図る
    ◎ 費用弁償を廃止する
    ◎ 関連議会や議員枠での会議の報酬をなくす
    ◎ 二元代表制における役割を明確にするため、議員は、法令などで規定のある場合を除き、行政の執行機関に就任しない*48
  6. 議会における性差別をなくす

平和・人権

憲法を活かす
人権・平和をまもる社会を地域からつくる

 原発再稼働・輸出、集団的自衛権の行使容認、武器輸出三原則の緩和(防衛装備移転三原則)、そして、背景には秘密保護法やNSC法の制定(2013年12月)など、現政権は「積極的平和主義」*49 を歪曲しつつ、強引に持論を推しすすめようとしている。「平和」とは対極の方向に舵を切ろうとしている政府に対し、無関心をやめた市民の行動も決して少なくない。立憲主義、民主主義、 平和主義の破壊の危機にある今こそ、平和問題を国政に白紙委任せず、国際交流など、自治体レベルで市民一人ひとりが取り組む平和施策が重要になる。

 そして、依然として残る障がい者差別、性差別、さらに近年では、ヘイトスピーチ(憎悪表現 /差別的扇動行動)の問題が、国連から法規制の勧告を受けている。その一方で、正当な市民の言動にまで圧力をかけようとする動きもあり、現代は、まさに人権と民主主義の危機と言わざるを得ない状況にある*50。

 多様性を認め合う「共生」の考え方は、平和にも、そして人権問題にも通じる視点と言えよう。 身近な地域においては、だれもが対等で、互いの人権を尊重できる社会に向けた教育を充実させ、被害者への救済・相談体制のしくみを設けることが求められる。

  1. 大人も子どもも憲法を学ぶ機会をつくる
  2. 戦争遺跡の調査・保全をすすめ、戦争体験を記録に残し、平和教育に活用する
  3. 紛争解決のためのコミュニケーションスキル習得などを平和教育に導入する
  4. 非核平和都市宣言の発信や、平和条例の制定を行う
  5. 人権教育を充実させ、人権が守られる社会をつくる
  6. 権利擁護から救済までつなぐ、 総合相談窓口をつくる

 

基本政策・参考資料

1. 一括交付金制度…民主党政権下で提案、地域の自由裁量を拡大するため、「地域主権戦略大綱」 (2010.06.22閣議決定)等に基づき、各府省所管の都道府県向けの投資に係る補助金等の一部を内閣府予算として一括計上、地方自治体が自主的に選択した事業に対して交付金を交付する「地域自 主戦略交付金」が2011年度に創設された。ひも付き補助金の一括交付金化は、地方の自由度の拡大、効率的・効果的な財源の活用として期待されたが、 実際には対象範囲の狭さや自治体のニーズとのミスマッチなどの課題も指摘。現政権は、「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(2013.01.11閣 議決定)を踏まえ、2013年度に地域自主戦略交 付金を廃止、各省庁の交付金等に移行、ひも付きに逆戻りしている。

2. 官制ワーキングプアの現状… 自治労の実態調査によると、自治体で働く臨時・非常勤職員は全国に約70万人。自治体職員の3人に1人は非正規で、どの自治体も急増。消費生活相談 員や保育士のほか、市民サービスの第一線で働く学童指導員、 図書館職員など女性職場に目立ち、女性の問題とも言える。2カ月ごとに雇用契約と解雇を繰り返す東京都の臨時職員制度では、多くの女性が長期間働 いても社会保険に加入できない不安定な状況に置かれているとして、市民団体「ワーキング・ウイメンズ・ネットワーク」が「憲法が禁じる性差 別」に当たると 国連自由権規約委員会へ報告している。 また、自治体の事業を民間企業などに委託する際の契約(公契約)で、働く人の雇用・労働条件を守り、市民がよりよい公共サービスを受けられるようにするための「公契約条例」を制定する自治体も少しずつ増えてきている。

3. ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)… 概念は第87回ILO総会(1999年)に提出された事務局長報告において初めて用いられ、(1)雇用の促進、(2)社会的保護の方策の展開及び強化、(3)社会対話の促進、(4)労働における基本的原則及び権利の尊重、促進及び実現の4つの戦略的目標を通して実現されると位置付けられている。男女平等及び非差別は、これらの目標において横断的な課題。日本では、2012年7月に 閣議決定された「日本再生戦略」においてディーセント・ワークの実現が盛り込まれている。

4. 短時間公務員制度… 地方公共団体は「任期付職員法(地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律)」の規定に基づき、条例で定めれば、 任期付職員の採用を行うことができる。任期付職員法は、高度の専門性を備えた民間人材の活用等の観点から、専門的知識経験等を有する者等の採用を行う特例法として制定、2004年の改正で、一定の期間内に終了することが見込まれる業務のための規定(4条)とともに、サービスの提供体制の充実や部分休業を取得する職員の業務の代替を要件とする「任期付短時間勤務職員」(5条)の規定が加えられた。つまり、現行でも「任期付き」なら短時間勤務制度はあるが、ネットが政策提案しているのは、「ワークシェア」の視点で、同一価値労働・ 同一賃金を前提とした「短時間公務員」制度である。

5. 子育て新制度…2012年8月に成立した「子ども・子育て関連3法(「子ども・子育て支援法」、「認定こども園法の一部改正」、「子ども・子育て支援法及び認定こども園法の一部改正法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」)に基づく新システム。ポイントは以下のとおり。
①認定こども園、幼稚園、保育所を通じた共通の給付(⇒施設型給付)、及び小規模保育等への給付(⇒地域型保育給付)の創設
②認定こども園制度の改善
・幼保連携型認定こども園は、認可・指導監督を一本化し、学校及び児童福祉施設として法的に位置づける。
・認定こども園の財政措置は「施設型給付」に一本化。
③地域の実情に応じた子ども・子育て支援(利用 者支援、地域子育て支援拠点、放課後児童クラブなどの「地域子ども・子育て支援事業」)の充実
・教育・保育施設を利用する子どもの家庭だけでな く、在宅の子育て家庭を含むすべての家庭及び子どもを対象とする事業として市町村が地域の実情に応じて実施。
④基礎自治体(市町村)が実施主体
・市町村は地域のニーズに基づき計画を策定、給付事業を実地。
・国・都道府県は実施主体の市町村を重層的に支える。
⑤社会全体による費用負担
・消費税率の引き上げによる、国及び地方の恒久財源の確保を前提。
⑥政府の推進体制 ・制度ごとにバラバラな政府の推進体制を整備(内閣府に子ども・子育て本部を設置)。
⑦子ども・子育て会議の設置
・有識者、地方公共団体、事業主代表・労働者代表、 子育て当事者、子育て支援当事者等(子ども・子育て支援に関する事業に従事する者)が、子育て支援の政策プロセスなどに参画・関与することができるしくみとして、国に子ども・子育て会議を設置。
・市町村等の合議制機関(地方版子ども・子育て会議)の設置は努力義務。
⑧ 施行時期:2015年4月に本格施行の予定 ※幼児教育・保育・子育て支援の質・量の拡充を図るためには、消費税率の引き上げにより確保する0.7兆円程度を含めて1兆円超程度の追加財源が必要とされている。しかし、消費税率を8%に据え置いた場合、政府が消費税増税によって確保するとしている子育て支援の財源0.7兆円に対し、0.3兆の不足が2015年度に生じることが厚生労働省の試算で判明している(2014.09)。税率5→8%の増収分から、子育てには0.4兆円強しか回せないためとしているが、財源不足を 10%引き上げへの理由にしてはならない。

6. 児童虐待の現状…全国の児童相談所での児童虐待に関する相談対応件数は、児童虐待防止法施行前の1999年度に比べ、2012 年度は5.7倍に増加(66,701 件)。虐待による死亡事例件数は、高い水準で推移している。子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第10次報告)によると、2012年度は、虐待死事例の総数78例(90人)、うち心中以外の虐待死49例(51人)、心中による虐待死29例(39人)。

7. 子どもの放射線被ばく…2011 年3月11日の東日本大震災に続く原発事故は、子どもたちの未来に暗い影と深刻な爪痕を残した。2012年6月に「子ども・被災者支援法(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)」が成立したが、プログラム法案であり、実効性が課題として指摘された。放射線による健康への影響に関する調査(定期的な 健康診断等)も規定されたが、政府は、外部被曝・内部被曝に対する抜本的な手立てを講じていない。 福島県の甲状腺検査(対象:事故当時18歳以下の子ども)の結果(2014.06.30現在)では、受診した30万人のうち、104人が甲状腺がんやその疑いと判定された(穿刺吸引細胞診を行った子どものうち104人が悪性ないし悪性の疑いと判定)。ただし県は「被曝の影響とは考えにくい」としている。

8. 教育再生の動向…2012年12月に発足した第二次安倍内閣は、第一次政権時の「教育再生会議」を復活させる形で「教育再生実行会議」を設置。 第1回(2013.01.24)の冒頭挨拶では、「教育再生は、経済再生と並ぶ日本国の最重要課題であり、「強い日本」を取り戻すためには、日本の将来 を担っていく子どもたちの教育を再生することが不可欠。 教育再生の最終的な大目標は、世界トップレベルの学力と規範意識を身につける機会を保障すること(以下略)」と、意気込みを語っている。「教育再生実行会議」は、これまでに第1~5次の提言 を取りまとめている。①いじめの問題等への対応について(2013.02)、②教育委員会制度等の在り方について(2013.04)、③これからの大学教育等の在り方について(2013.05)、④高等学校教育と 大学教育の接続・大学入学者選抜の在り方について(2013.10)、⑤今後の学制等の在り方について(2014.07)。

9. 地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律… 教育の政治的中立性、継続性・安定性を確保し、地方教育行政における責任の明確化、迅速な危機管理体制の構築、首長との連携強化を図り、地方に対する国の関与の見直しを図るため、地方教育行政制度の改革を行うもの。 柱は、①教育行政の責任の明確化、②総合教育会議の設置、大綱の策定、③国の地方公共団体への関与の見直し。2015年4月1 日施行。

10. 教科書検定基準見直し… 教科用図書検定調査審議会は、検定基準の社会科固有の条件について、①未確定な時事的事象について記述する場合に、 特定の事柄を強調し過ぎていたりするところはないことを明確化、②近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されているとともに、児童生徒が誤解しないようにすることを定める、③閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解や最高裁判所の判例がある場合には、それらに基づいた記述がされていることを定める-とした(2013.12.20)。  さらに文部科学省は、中学社会科と高校の地理 歴史、公民について、教科書を編集する際や学校での授業の指針となる学習指導要領の解説書を改訂、全国の教育委員会などに通知、竹島や尖閣諸島を「日本の固有の領土」と教えるよう求めている。
(2014.01.28「中学校学習指導要領解説」及び「高等学校学習指導要領解説」の一部改訂について)。

11. 道徳の教科化...教育再生実行会議の第一次提言(2013.02)等を踏まえて文科省が設置した「道徳教育の充実に関する懇談会」は「教育課程において、特別の教科として位置付ける」等と報告(2013.12)。 それを受けて、文科省は「教育課程 部会 道徳教育専門部会」に「道徳に係る教育課程 の改善等」について諮問、部会では「道徳の時間 を教育課程上「特別の教科道徳」(仮称)として新たに位置付け、その目標・内容等を見直すとともに、「特別の教科道徳」を要として学校の教育活動全体を通じた道徳教育が真に充実したものとなるよう、教育課程の改善が必要」と答申案がまとめられた(10月に答申、それを受けて文部科学省は2014年度中に道徳に関する学習指導要領の改定案を提示、早ければ 2018年度からの実施を目指すとしている)。

12. いじめ対策…国では「いじめ防止対策推進法」 が成立(2013.06)。東京都は「いじめ防止対策推 進条例」を制定、条例に基づき、「東京都いじめ防止対策推進基本方針」及び「東京都教育委員会いじめ総合対策」を策定した(2014.07)。また、東京都教育委員会は「いじめ総合対策(いじめに関する専門家会議報告)」や「いじめ問題に関する研究」の内容を踏まえ、授業や教員研修で活用できる実践例を「いじめ問題に対応できる力を育てるために-いじめ防止教育プログラム-」としてまとめている(2014.02)。学習プログラムは、いじめを傍観しない基盤づくり・いじめを生まないための互いの個性の理解など、教育研修は、いじめの未然防止に向けた学校の対応・早期発見のための情報共有の工夫。  特定非営利活動法人湘南DVサポートセンターは、2006年に「いじめ防止」や「デーティング・ バイオレンス防止」など、10代の子ども向けプログラムを開発し、小・中・高校・大学で暴力防止教育を行っている。

13. 不登校の状況… 学校基本調査によると、2013年度の長期(30日以上)欠席者のうち、「不登校」 を理由とする児童生徒数は、小学校で2万4千人(前年度比+ 3千人)、中学校は9万5千人(同+4千人)。東京都では、小学校2407人、中学校8117人。東京都の「児童・生徒の問題行動の実態について」によると、2012年度の不登校数は、 小学校1912人、中学校6469人、高校は全日制1093人+定時制 3600人。

14. フリースクール…「教育再生実行会議」(首相の私的諮問機関)は第5次提言「今後の学制等の在り方について」(2014.07.03)で、「生徒の学習ニーズに対応した教育の多様化・特色化が重要」とし、「フリースクールやインターナショナルスクールなどの学校外の教育機会の現状を踏まえ、その位置付けについて、就学義務や公費負担の在り方を含め検討。また “ 夜間中学 ” の設置を促進」と提起した。安倍首相は、東京シューレを視察(2014.09)。 文科省は「フリースクール等プロジェクトチーム」 を設置、2015年度の概算要求では、フリースクー ル等に関する調査研究1億円を計上している(フリースクール等に関する検討会、学校復帰や社会復帰を支援しているフリースクールを含めた学校外の不登校支援施設・機関による指導体制等の在り方に関する先進的調査研究の実施18カ所)。

15. 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育 システム構築のための特別支援教育の推進…障がい者権利条約批准に向けた体制整備(障がい者制度改革)において、教育分野では、障がい者権利条約のインクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえた教育制度の在り方やそのための具体的方策等について、中央教育審議会(特別支援教育の在り方に関する特別委員会、合理的配慮等環境整備ワーキンググループ)で検討が行われた。取りまとめ「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」 (2012.07.03)では、「共生社会の形成に向けて、 障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要がある」と明記、①共生社会の形成に向けて、②就学相談・就学先決定の在り方について、③障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備、④多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進-が柱。障がいのある者と障がいのない者が共に学ぶしくみとしての「インクルーシブ教育システム」の 意味や、「合理的配慮」の必要性が明記されたことは一歩前進だが、「合理的配慮」は、学校等に「体制 ・ 財政面で過度の負担を課さない」との配慮が付され、「多様な学びの場」として、「通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校それぞれの環境整備の充実が必要」など、従来の枠組みに留まっている課題も残る。

16. メディア ・ リテラシー教育…2006・2007年度文部科学省委嘱事業「教科書の改善・充実に関する研究事業」は、「教科書の改善・充実に関する調査研究報告書(国語)」をまとめ、提言の1つが「メディア・リテラシー教育の教材を改善 ・ 充実させる」「氾濫する情報の中から必要な情報を取捨選択し分析、加工して知識として活用していく能力はまさに国語教育の中で培うもの。映像や音声といった情報から読み取る力についても国語で教えるべき。現行の範囲を拡大し取り上げていく必要がある」としている。

17. ニート、フリーター、ひきこもり…2014年版 子ども・若者白書によると以下のとおり。 若年無業者:15~34歳の非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者の数は、2002年に大きく増加した後、おおむね横ばいで推移。2013年は60万人、前年より3万人減少。15~34歳人 口に占める割合は長期的にみると緩やかな上昇傾向にあり、2013年は2.2%。年齢階級別では、15~19歳9万人、20~24歳15万人、25~29歳17万人、30~34歳18万人。
フリーター:15~34歳で、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者のうち、①雇用者のうち勤め先における呼称が「パート」か「アルバイト」で ある者、②完全失業者のうち探している仕事の形態が「パート・アルバイト」の者、③非労働力人口で家事も通学もしていない「その他」の者のうち、就業内定しておらず、希望する仕事の形態が「パート・アルバイト」の者-の合計として集計すると、この数年はおおむね横ばいで推移、2013年 には182万人となった。年齢階級別では、15~24歳は減少傾向、25~34歳の年長フリーター層は2009年以降増加傾向。フリーターの当該年齢 人口に占める割合は2008年を底に上昇傾向にあり、2013年は6.8%。特に、25~34歳の年長フリーター層では上昇が続いている。
ひきこもり: 内閣府が2010年2月に実施した「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」によると、「ふだんは家にいるが、近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、 家からは出ない」「自室からほとんど出ない」に該 当した者 (「狭義のひきこもり」) は 23.6万人 、「ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事の時だけ外出する」(「準ひきこもり」)は46.0万人、両方を合わせた広義のひきこもりは69.6万人と推計される。
ニー ト( 英:Not in Education,Employment or Training, NEET)とは、就学、就労、職業訓練のいずれも行っていない状態を指した用語。ニートの概念が複雑で、フリーターとの区別等の関係で、 統計的に課題が指摘され、内閣府によるフリーター及びニートの推計調査は2005年『若年無業者に関する調査』を最後に実施していない。

18. 地域若者サポートステーション(愛称「サポステ」)… 働くことに悩みを抱えている15歳~39歳の若者に対し、キャリア・コンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練などによるステップアップ、協力企業への職場体験などにより、就労に向けた支援を行う。サポステは、 厚生労働省が認定した全国の若者支援の実績やノウハウのあるNPO法人、株式会社などが実施しており、2014年度は全国160カ所に設置されている。  また、働くことについて悩みを抱えている若者の自立のサポートを目的として作られたwebサイト「ニートサポートネット」は、厚生労働省の委託事業として実施され、全国のサポステに関する情報をはじめ、サポステと連携関係にある全国のさまざまな若者支援機関について、検索・閲覧ができる。
 「日本再興戦略」改訂2014(2014.06.24)では、 「未来を創る若者の雇用・育成のための総合的対策」として、「わかものハローワーク」「地域若者サポートステーション」等の地方や民間との連携の在り方を含む総合的な見直しにより、フリーター・ニートの就労支援を充実させるとともに、正規雇用化等を進める-と明記されている。

19. ブラック企業... 本来は、暴力団等、反社会的団 体とつながりを持つなどの違法行為が常態化している会社のことを意味する言葉だが、近年、社会的に大きな問題となっているのは、若者を大量に採用しながら、過重労働・違法労働によって、次々と離職に追い込み、企業としては成長する新興産業等のことをいう。厚生労働省は「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」に対し、2013年9月、 集中的に過重労働重点監督を実施、全体の82.0%に何らかの労働基準関係法令違反があり、是正勧告がなされた。全国一斉の電話相談(2013.09.01) には、1042件の相談が寄せられている(主な相談 内容は①賃金不払い残業、②長時間過重労働、③ パワーハラスメント)。

20. 非正規雇用の現状… 非正規雇用労働者は、1995~2005年に急増、以降現在まで緩やかに増加。特に15~24歳の若年層で、1990年代半ばから2000年代初めにかけて大きく上昇。また、 雇用形態別にみると、近年、パート、契約社員・嘱託が増加している。2013年では、15~24歳の32.3%、25~34歳では27.4%が非正規雇用。 正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いている者(不本意非正規)の割合は、非正規雇用 労働者全体の19.2%、15~24歳では17.8%、25~34歳では30.3%(総務省・労働力調査等)。

21. 子ども若者育成支援推進法をめぐる現状…2009 年「子ども若者育成支援推進法」が成立、その施行(2010年)をうけ、「青少年育成施策大綱」 に代わるものとして、「子ども・若者ビジョン~子ども・若者の成長を応援し、一人ひとりを包摂する 社会を目指して~」が策定された。2014 年 7 月には「子ども・若者育成支援推進大綱(「子ども・若者ビジョン」の総点検の報告書)が取りまとめられている。「ニート、ひきこもり、不登校の子ども・ 若者への支援」としては、専門性や多職種によるアプローチ、支援の拠点としての地域若者サポートステーションの更なる活用、個々の子ども・若者の置かれた状況に応じた支援などが提言されている。一方、自民党は「青少年健全育成基本法」の制定を選挙公約(マニフェスト)に掲げている。「次代を担う青少年を健全に育成していくことが我が 国社会の将来の発展にとって不可欠の礎であることに鑑み、青少年の健全な育成という観点から、子ども・若者育成支援推進法について、題名の改正、 基本理念の見直し、保護者、国民及び事業者の責務の追加、施策の拡充等の措置を講ずる必要がある」として、「子ども若者育成支援推進法・改正案」 を議員提案、日本国憲法も子どもの権利条約の理念も抜き取り、「若者の参加及び意見表明権」という文脈も完全に消し去った空疎なものにしている
(2014年6月に参議院で提案、審議未了)。

22. キャリア教育… 改正教育基本法(2006.12)では、第2条(教育の目標)の第2号に「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い、 自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと」が規定された。  中央教育審議会は「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(答申)(2011.01.31)において、キャリア教育は「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発 達を促す教育」としている。  生活者ネットワークは「若者アンケート」を実施、「働く権利に関して知っているか、学校教育で学んだか」の質問に対しては、労働時間、最低賃金、 男女雇用均等、各項目とも「知っている」との回答は全体の4割、学校教育で学んだとする回答は少ない。

23. ワーク・ライフ・バランスの現状…2014年度版「男女共同参画白書」によると以下のとおり (2013年度の状況)。
年間就業日数が200日以上の就業者の週間就業時間:週60時間以上就業している者の割合は、性別では、就業形態を問わず女性より男性の方が高い。 また、就業形態別では、性別を問わず「自営業主」で最も高く、「非正規の職員・従業員」で最も低い。 有業・有配偶男女の仕事時間及び家事関連時間(2011年): 「仕事時間」は男性が1日当たりの平均36分、女性は390分。また、「家事関連時間」(家事、介護・看護、育児、買い物)は、男性が358分、女性が530分。男性の家事活動に従事した者の割合(女性比)は増加傾向だが、平均時間の女性比はほぼ横ばい。
男性の育児休業取得率:長期的には増加傾向にあるものの、2012年度は1.89%にとどまっている。6歳未満の子どもがいる世帯における有業の夫の、短時間勤務制度や企業独自の制度を含む育児休業等制度の利用状況は、2012年10.6%。利用者の妻48.7%は無業者。また、妻が有業で育児休業等制度を利用していない割合は、男性の育児休業等制度利用者の妻全体の12.2%。
介護・看護を理由とした離職者数: 年によって変動があるが、男性に比べて女性が大幅に多い傾向が続いている。男女とも、就業しながらの介護・看護、 あるいは将来的な就業復帰を希望する割合が高い。 雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合:男性19.4%、女性53.9%(2013年)。

24. 成長戦略と女性の活用… 安倍政権は、日本経済の再生に向け、①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略という3つの政策を「3本の矢」として同時展開 していくとしている。成長戦略=「日本再興戦略- JAPAN is BACK -」(2013.06)では「2020年に女性の就業率(25~44歳)を73%(現状68%)にする」と明記、「日本再興戦略」改訂2014(2014.06) では「『2020年に指導的地位に占める女性の割合30%』を達成するために、国、自治体、企業が果たすべき役割を定め、女性の活躍を促進することを目的とする『女性の活躍推進に向けた新たな法的枠組み』を構築する」ことが掲げられ、合わせて「女性の特性に応じた女性の健康の包括的支援」 も明記された。女性の人権、ジェンダー平等、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点が欠如し ている政権の法整備には、懸念の声が大きい。  「放課後児童クラブ」や「放課後子供教室」では「子育ての経験等を生かした女性の活躍の推進等により、担い手を確保」とされ、「担い手確保」を優先する短絡的な発想としても、人材育成・質の向上の意味でも危惧される。

25. 家事ハラスメント... 竹信三恵子さん(和光大学現代人間学部教授)は「家事労働ハラスメント=家事労働を蔑視・軽視・排除する社会システムによる嫌がらせ」と定義、こうした蔑視によって、 家事労働の担い手とされる女性が、貧困や生きづ らさへと追い込まれていくことを指摘している。 しかし、それを某企業広告が「妻からの家事ハラ」として使用、「家事をやらされる男性のつらさ」を指す言葉に転化させられてしまい、物議となった。

26. 女性の管理職…2014年度版「男女共同参画白書」によると、管理的職業従事者数は、男性が1992年の239万人をピークに減少が続き、女性も1996年の22万人をピークに減少傾向にあ るが、 男性よりも減少幅が小さいため、結果的に、管理的職業従事者における女性割合は増加傾向にある。各自治体は、男女共同参画の計画を策定しているので、年度報告等をたどっていけば、進捗状況などを確認できる。例えば、多摩市(※ただし、市職員係長職以上の女性比率)18.5%(2012年度実績)、 青梅市5.4%( 2013.04.01)、八王子市11.2 %(2012年度)、小平市16.9%(2012.04.01)。東京都職員に占める管理職の割合(2013年)は、参事(部長級)11.21%、副参事(課長級)20.9%(主事では、課長補佐・係長級29.8%、主任・その他44.0%)。

27. 権利擁護のしくみ(現行制度)…市民後見推進事業:認知症や独居高齢者の増加に伴う成年後見制度の需要の増大に対応するため、 弁護士などの専門職のみでなく、市民を含めた後見人も後見等の業務を担えるよう、市区町村で市民後見人を確保できる体制を整備・強化し、地域での市民後見人の活動を推進する取り組みを支援するもの。2011年度から実施。
市町村長申立:事例①親族がいない・不明(申立ができるのは4親等以内だが、2親等内の親族の有無、意思を確認すれば足りる扱い)、②親族がいても、音信不通・申立拒否・虐待等で申し立てすることが不適当な場合。件数は年々増加、東京都は2011年度595件。
地域福祉権利擁護事業(福祉サービス利用援助事業):社協が実施。
成年後見人等に対する報酬助成: 現行制度では、 成年後見人等の報酬や手続を利用するための費用は本人負担、経済的に困窮している場合、利用は難しい。制度の利用を促進するしくみ「成年後見 制度利用支援事業」や東京都の「成年後見活用あんしん生活創造事業」には、報酬助成の規定もあるが、導入していない自治体も多く、導入しても要綱で対象を区市町村長申立に限定するなど、課題が指摘されている。

28. 社会的事業所…障がい者就労施策において、障がいのある人もない人も対等な立場でともに働くことを基本に、一般就労と福祉就労以外の第三の就労として提唱(共同連やワーカーズ・コレクティブ・ネットワーク・ジャパン等が提案している「社会的事業所促進法」では、障がい者に限定せず、 ひきこもり、薬物依存症者、刑余者、シングルマザー、外国人移住者など「就労困難者」としている)。 札幌市の「ソーシャルファーム」、箕面市の「障害者事業所」制度など、自治体により呼び方も異なる。
・三重県は、2014年度から社会的事業所に対する助成制度を創設するとともに、優先調達の対象とすることなどにより、社会的事業所の創業と安定的な運営を支援、障がい者の働く場を拡大している(社会的事業所創業支援モデル事業費補助金: 補助割合は県1/2、市町1/2、補助基準額は障がい者従業員人 50,000円、期間は創業当初の3年間)。
・滋賀県の「社会的事業所」制度は、障害者従業員を5人以上20人未満(かつ5割以上)雇用している事業所が対象、運営費・管理費等を助成(上限:年間118万円/人)補助割合は県と市が1/2ずつ負担。
・箕面市の「障害者事業所」制度は、職業的重度障害者を4人以上(かつ3割以上)雇用している事業所が対象、障害者への支払賃金の3/4相当額を助成(上限:年間118万円/人)、援助者と作業設備に対しても定額補助を支給。

29. 精神障がい者の地域移行… 「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」は、①将来像、②本人への支援、③病院の構造改革を柱に取りまとめを行った(2014.07.17)。「病院資源のグループホームとしての活用」については、「本人の自由意思に基づく選択の自由を担保する」「外部との自由な交流等を確保しつつ、病院とは明確に区別された環境とする」「地域移行に向けたステップとしての支援とし、基本的な利用期間を設ける」等の要件が提示された。一方、特に当事者からは、あくまでも居住の場としての活用は否との強い意見が出ている。

30. 医療介護総合確保法…正式名称は「地域における医療及び介護の総合的 な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」。法律の柱は以下のとおり。①新たな基金の創設と医療・介護の連携強化(消費税増収分を活用した新たな基金は、2014年度の活用は医療分野のみ、介護分野は2015年度から)②地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保(都道府県は、地域医療構想(ビジョ ン) を医療計画において策定する) ③地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化(全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護) を地域支援事業に移行し多様化/特養入所者を中・重度介護者に重点化/低所得者の保険料軽減拡充/一定以上所得者の自己負担を2割に引き上げ/ 補足給付の要件に資産等を追加) ④その他(介護人材確保対策の検討:介護福祉士 の資格取得方法見直しの施行時期を2015年度から2016年度に延期)等

31. 暮らしの保健室…2011 年7月から厚生労働省の「在宅医療連携拠点事業モデル事業」の助成を受け、(株)ケアーズの白十字訪問看護ステーションを母体に、新宿区の戸山ハイツにオープン。多職種連携のための6つの会議を継続開催(①牛込地区在宅患者を考える会、②在宅療養シンポジウム、③在宅療養学習会④先進事例から学ぶ学習会、⑤多職種連携のためのケース勉強会、⑥個別ケースにおける地域ケア会議)。終末期の緩和ケアだけでなく、がんのどの時期でも受けられる、「病院以外の相談支援の場」が求められている。また、行政の相談窓口は敷居が高くても、地域の居場所と してカフェ感覚でおしゃべりする中で、生活の困りごとに自分で気づく高齢者も多い。

32. 市民が構想する必要性… これまで非営利の市民事業等に支えられてきた地域福祉にも、今や多種多様な民間企業が参入、今後さらに加速、営利を目的としたシルバー産業による市場化で、ケアの質も懸念される。「日本再興戦略改訂2014」(2014.06.24 閣議決定)でも、「民間企業(コンビニ、飲食店等)による健康増進・生活支援・介護予防サービスの多機能拠点(総合相談、訪問・通所サービス、宅配・配食サービス、見守り等)を「街のワクワク(WAC WAC)プレイス」(仮称)として、 市町村にその情報を一元的に集約して住民に提供する仕組みを来年度中に構築する」と明記された(公的保険外のサービス産業の活性化の②として、ヘルスケア産業を担う民間事業者等が創意工夫を発揮できる市場環境の整備)。

33. 地域包括支援センターにおける多職種協働… 現行法で配置が規定されているのは3職種(保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員)。現状でさえ、専門職の確保が難しいなど、職員体制の課題が指摘されており、さらに今般の制度改正では、新たに包括的支援事業に「在宅医療・介護連携」や「生活支援サービスの体制整備」等の事業が位置づけられるなど、地域包括支援センターの機能強化が求められている。なお、地域包括支援センターに関する基準は2014年度末までに条例で市町村が 定めることとされている。職員の人員数及び人員配置基準は「従うべき基準」、基本方針等は「参酌すべき基準」(7/28全国介護保険担当課長会議)。 地域包括支援センターに直接、多職種の職員を配置することは困難でも、地域ケア会議の拡充で、多職種協働(自治体職員、包括職員、ケアマネ ジャー、介護事業者、民生委員、OT、PT、ST、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、歯科衛生士など)によるケアマネジメント支援、地域のネットワーク構築が期待できる。また、静岡県富士宮市は、相談窓口を一元化、受理段階で、多重債務や障がい福祉サービスの申請などは各相談窓口につなぎ、重層的、困難課題のケースは、地域包括支援センターが直接対応してコーディネート、その後各専門機関等につなげている。

34. 在宅療養、在宅介護の後方支援…在宅ケアを支えるには、緊急時や家族へのレスパイトケア(介護の負担軽減・リフレッシュを図るため、一時的にケアを代理する)が必要だが、24時間迅速に対応、必要に応じて入院受け入れを行う医療機関や、
緊急時のショートステイはまだまだ不足。ショートステイには、介護老人福祉施設などに入所、食事や入浴のサービス提供や機能訓練を受ける「短期入所生活介護」と、医学的な管理のもとで介護サービスを受ける「短期入所療養介護」があり、 連続利用日数は30日まで。小規模多機能型居宅介護は、施設への「通い」を中心に、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問」を組み合わせる。  日本ケアラー連盟は「介護者支援法案」を提案、 要綱案では、介護者の生活プラン作成や相談事業を行う「介護者支援センター」や、レスパイト施設などの整備を市町村に求め、国には介護者の実態調査や、介護者手当の支給、就業機会の提供といった具体的な支援策を検討するよう求めている。

35. 学校給食の民間委託… 狛江市は、「狛江市立小学校給食調理委託化の基本方針」(2013.05)に基づき、小学校給食調理の委託化を推進し、2014年度は、1校の給食調理 を委託化。委託先選定にあたっては、民間事業者のプレゼンを実施、選定委員には、保護者も参加した。決まった業者のプレゼンは非常に内容がよかったとされている。今後も、委託先は、学校ごとに決めることになっている。 調理業務の民間委託の検討に際しては、保護者も参加し、価格だけでない、内容重視の評価ができるようにすべき。まして低価格の委託費は、調理に従事する人の労働環境にも影響する。

36. 農地を活用するしくみ…以下のような事例がある。
町田市「農地あっせん事業」:昔ながらの里山風景を守ると同時に、既存農家の規模拡大や新たに農業経営を始める方のために、市街化調整区域にある遊休農地を市があっせんする「農地利用集積円滑化事業」を実施。
国立市「くにたちはたけんぼ」の取り組み: 畑+田んぼ+ハケ(崖線)で「はたけんぼ」。田んぼや畑を守り育てたい人がだれでも参加できる新しい形の農園として、イベントや援農への参加の他、 企業、NPO、市民サークルなどの団体へ畑を貸す、「農園運営ができる人材育成」を目的とした講座の開催などを実施。
世田谷区「農の風景育成地区」事業:制度は東京都が2011年に創設、農地や屋敷林などが比較的まとまって残る地区を指定、区市町と協力して農地等の保全を図るために都市計画制度などを積極的に活用。第1号として世田谷区喜多見4・5丁目 が指定。 ソーラーシェアリング: 農地の上空に太陽光パネルを設置する取り組み。農林水産省は支柱を立てて営農を継続するタイプの太陽光発電設備等について、農地転用許可の対象となるか否かを明らかにするため 「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」をとりまとめた(2013.04.01)。

37 コミュニティ・ダイニング…以下のような事例がある。
豊島区「要町あさやけ子ども食堂」:子どもが1人でも入れる食堂。豊島子どもWAKUWAKU ネット ワーク(地域の子どもを地域で見守り育てるために設立)が、生活クラブ生協の食材を使用、毎月、第1・第3水曜日の17:30~19:00、300 円で夕食を提供。
武蔵野市「だんらん給食」: 学校と地域の人々との交流を深めることを目的に、だんらん給食(境南小学校)、敬老給食(第一小学校など)を実施。だんらん給食は、保護者、地域でお世話になっている方、生産者などを招き、会食を通して子どもの 情操育成を目的に実施、子どもたちが雰囲気づくりや会食中の話題づくりなどを工夫し、楽しい会食会を通じてもてなすことの意味を学ぶ(武蔵野市の学校給食は、一般財団法人武蔵野市給食・食育振興財団が実施)。

38. 原発輸出...既に民主党政権下で方向性が明確にされた経緯がある。新成長戦略(2010年6月閣議決定)では、「環境・エネルギー技術の海外展開」 として「低炭素技術分野での世界シェア・トップ レベルを目指したプロジェクト構築支援等の官民連携体制の強化」、即ち「原発輸出を積極的に進める姿勢」が掲げられ、第179回国会(2011年10~12月)では、ベトナム、ヨルダン、ロシア、韓国との原子力協定が承認、原発輸出に向けた一歩 が踏み出されている。言うまでもなく、自民党政権でもこの方針に変更はなく、むしろ首相によるトップセールスは加速している。

39. 環境省と経産省による容リ法見直し合同会合…2006 年改正時に、5年を目途に見直すと約束された容器包装リサイクル法であったが、2013年9月、中央環境審議会循環型社会部会容器包装の3R推進に関する小委員会と、産業構造審議会産業技術環境分科会廃棄物・リサイクル小委員会容器包装リサイクル ワーキンググループの第1回の合同委員会が開催、容リ法の再改正に向けた審議がようやく始まった。2014年12月には取りまとめの予定。

40. 地域の実情にあったエネルギー施策… 具体的には、省エネリノベーション(断熱効果を高めるガラスや壁材など)、HEMS(Home Energy Management System:電力使用量の可視化、節電や再生可能エネルギー・蓄電器の制御等による、住宅向けエネルギー管理システム)などがある。 杉並区は「地域エネルギービジョン」(2013.06) の重点事項に「スマートコミュニティづくりの推進」(木造住宅が集まる地域の建替えに併せた、住宅の省エネ化によるスマートコミュニティのモデ ル地域づくり)を位置づけている。

41. 都市計画道路第4次事業化計画…東京都の都市計画道路は、現在「第3次事業化計画」に基づき、優先整備すべき道路が挙げられ、事業が進められているが、区部 ・ 市部それぞれに策定されている計画は、どちらも2015年度まで、次期の10年間の第4次計画については、既に、区部 ・ 市部 それぞれで、策定のための検討体制が2013年の秋頃からスタートしている。市民意見の反映が課題だが、特に東京都は、計画の策定過程が閉鎖的であること、長期間未整備(未着手)の都市計画を見直すしくみがなきに等しい問題が背景にある (2000年の分権改革時、国土交通省は改正都市計画法に関する考え方を示す「都市計画運用指針」 を策定、道路に関する都市計画の見直し方針を明 示。東京都の周辺の自治体では見直しガイドラインを策定、多少なりとも見直しがされた)。

42. 災害対策基本法・防災計画の見直し… 生活者ネットは、避難所運営への女性のリーダー配置、 防災会議などへの女性の参画拡大、防災計画における子どもの視点の必要性等を提案。東京都の「地域防災計画の修正」(2012.11)では「避難所 管理運営の指針」や「災害時要援護者防災行動マニュアルへの指針」改訂にあたり、女性の参画を推進するとともに、災害時要援護者の視点等を踏まえ対応することが明記された。  国の「防災基本計画」では、2005年改定時に「男女のニーズの違い等男女双方の視点に十分配慮すべき事項」を規定、2008年改定時には「男女共同参画の視点を取り入れた防災体制の確立」が規定、「災害対策基本法の改正」(2012年)では、地方防災会議の委員について自主防災組織を構成する者または学識経験のある者のうちから知事等が任命できることになり、NPO、女性団体の代表者などが委員として追加される道が拡大した。「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針(2013.05) では、平常時からの男女共同参画の推進が防災・ 復興の基盤となること、「主体的な担い手」として女性を位置づけることなどが基本的な考え方として提示された。

43. 生活困窮者自立支援法... 生活困窮者対策と生活保護制度の見直しについて一体的に検討するため、社会保障審議会に「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」が設置(部会長:宮本太郎・ 北海道大学大学院教授:当時)、2013年1月に報告書を公表。法律は、生活保護に至る前の段階の自立支援策の強化を図るため、生活困窮者に対し、自立相談支援事業の実施、住居確保給付金の支給その他の支援を行うもの。2013年11月に成立、2015年4月1日施行。必須事業は、自立相談支援事業の 実施及び住居確保給付金の支給、任意事業は、①就労準備支援事業、②一時生活支援事業、③家計相談支援事業、④学習支援事業、さらに都道府県知事等による就労訓練事業(「中間的就労」)の認定がある。費用は、▽自立相談支援事業、住居確保給付金:国庫負担 3/4、▽就労準備支援事業、一時生活支援事業:国庫補助 2/3、▽家計相談支援事業、学習支援事業その他生活困窮者の自立の促進に必要な事業:国庫補助 1/2。  「住居確保給付金」は、離職により住宅を失った 生活困窮者等に対し家賃相当の「住居確保給付金」(有期)を支給する。

44. 子どもの貧困率…厚生労働省が2014年7月にまとめた「国民生活基礎調査」によると、等価可処分所得の中央値の半分の額に当たる「貧困線」(2012年は122万円)に満たない世帯の割合を示す「相対的貧困率」は16.1%。これらの世帯で暮らす18歳未満の子どもを対象にした「子どもの貧困率」も16.3%となり、ともに過去最悪を更新した。子どもがいる現役世帯の相対的貧困率は14.6%、そのうち大人が一人の世帯の相対的貧困率が50.8%と、大人が二人以上いる世帯に比べて 非常に高い水準、OECDによると、我が国の子どもの相対的貧困率はOECD加盟国34か国中10番目に高く、子どもがいる現役世帯のうち大人が一 人の世帯の相対的貧困率はOECD加盟国中最も高い。つまり、ひとり親家庭など大人一人で子どもを養育している家庭が特に経済的に困窮している実態が明確になっている。

45. 子どもの貧困対策… 国は子どもの将来がその生まれ育った環境により左右されることのないよう、子どもの貧困対策を総合的に推進するため「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を制定 (2013.06成立、2014.01施行)。実効性への疑問と、対策の遅れが指摘されていたが、ようやく「子どもの貧困対策に関する検討会」を 2014年4月に立ち上げ、4回の会議を経て「子供の貧困対策に関する大綱」を策定、2014年8月29日に閣議決定した。大綱では、子どもの貧困に関する指標として、生活保護世帯に属する子どもの高等学校等進学率、スクールソーシャルワーカーの配置人数、 ひとり親家庭の親の就業率、子どもの貧困率など、 25の指標を立て、当面の重点施策として、教育支援、生活支援、保護者に対する就労支援、経済的支援、子どもの貧困に関する調査研究、施策の推進体制等を掲げている。

46 奨学金の現状…諸外国では奨学金の相当部分が給付型であるのに対し、我が国の奨学金のほとんどは貸与型である。さらに、国立大学でも初年度納付金標準額が81万7800円など、教育費が高額であること、不況により、大学を卒業しても安定した職業に就けず低賃金との理由で、奨学金の返済が滞るケースが増大している。日本学生支援機構などの徹底した回収強化策により、奨学金を返したくても返せない人が、経済的にも、精神的にも追い詰められている現状が社会問題となり、「奨学金被害」をなくそうと、弁護士、司法書士、教員らを中心に奨学金問題対策全国会議が設立している。

47. 議会における男女平等、クオータ制度… 日本の女性議員の割合は、国会議員が特に低く8%、地方議会は国政よりは高いが、2013年12月現在、 女性議員の割合が最も高い特別区議会で25.9%、政令指定都市の市議会16.5%、市議会全体では13.1%、都道府県議会8.8%、町村議会8.7%。第3次男女共同参画基本計画(2010.12.17 閣議 決定)では「今後取り組むべき喫緊の課題」のひとつ「ポジティブ ・ アクション」に「クオータ制度」 が盛り込まれた。「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、 少なくとも30%程度になるよう期待する」という 目標(2010.06.20 男女共同参画推進本部決定)の 達成に向けて、取組の強化・加速が不可欠である」 とし、ポジティブ・アクションの手法として、クオータ制(割当制)やインセンティブ付与、ゴール・アンド・タイムテーブル方式などを提示している。 政治分野におけるポジティブ・アクションの諸外国の事例は、1議席のうち一定数を女性に割り当てることを憲法や法律において定める「議席割当制」(Reserved seats)、2議員の候補者名簿の一定割合を女性が占めるようにすることを憲法や法律において定める候補者クオータ制(Legislated Candidate Quotas)、3政党が党の規則等により議員候補者の一定割合を女性とすることを定める、政党による自発的なクオータ制(Voluntary Political Party Quotas)に分類される。87カ国が何らかのクオータ制を導入、2及び3に適合的な比例代表制は、女性国会議員の割合が高い上位15カ国のうち14カ国で導入されている(2011年3月末現在)。日本の国政における女性議員の割合8%は、世界平均の22.2%を大きく下回り、189カ国中127 位とされる。 一方、議会内のしくみでは「産休・育休」制度 が議論になる。2007年設置の「都議会の在り方検討委員会」で、ネットは男女平等施策を推進していくため、都議会議員の「産休・育休制度」を提案、 議会内部の同意を拡大させた。育休制度は今後の課題とされたが、「産休制度」については議会で規則※が改正、都道府県レベルでの実現は、群馬県に続き2番目。(※都議会会議規則:第11条(欠 席の届出) 議員が疾病、出産その他の事故のため出席できないときは、その理由を付けて、当日の開議時刻前に、議長に届出なければならない。)  議会では、欠席しても理由を問わず報酬は支給されるが、出産により議会を休むことへのバッシングが問題。労基法が適用しない議会における「産休」制度の導入は、欠席事由に「出産」を明記することで、議会内や市民への認知・理解につなげることと言える。  北欧諸国の国会などでは、産休・育休制度が父母ともにしっかりと認められ、代理議員、代理投票、ペアリングなどの制度もある。

48. 議員と行政の執行機関…二元代表制による議事機関としての議会と市長等執行機関との関係を明確に分け、それぞれの場における審議の活性化を図るため、議員が執行機関の諮問的な性格を持つ附属機関のメンバーにならないようにする傾向は、議会改革の観点からも少しずつ広がっている。京丹後市や周南市など、規定を設けている議会もあり、決議を行って運用に反映させている議会もある。

49. 積極的平和主義... もともと平和学では戦争のない状態の「消極的平和(Negative Peace)」に対し、 貧困、抑圧、差別などの構造的暴力がない状態を「積極的平和(Positive Peace)」としている(ノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥング氏)。一方、安倍首相は米国でのスピーチで「積極的平和主義」を Proactive Contributor to Peace と言っており、これは和訳では「率先して平和に貢献する存在」だが、 平和学の研究者は、Proactive は軍事用語では「積極的平和」= Positive Peace の意味ではなく、『先制攻撃』のニュアンスで受け取られると指摘する。

50. 国連人種差別撤廃委員会... 日本政府に対して、人種差別を禁止する包括的な特別法(直接的および間接的な人種差別の禁止、被害者救済)を制定するよう勧告した (2014.08.29日本の第7回~9回定期報告に関する調査最終見解)。  一方で、ヘイトスピーチ規制に乗じて国会周辺デモも規制しようとする動きもある。上記の国連勧告でも、法規制を求めると同時に、ヘイトスピーチ規制が、それらに対する「抗議の表明を抑制する口実として使われてはならない」と指摘している。さいたま市公民館では、発行する月報に「憲法9条」の俳句の掲載を拒否(2014.06)、調布市では「調布九条の会」の創立記念イベントに後援しないことを決定(2014.09)など、正当な表現までをも規制するような、非常に懸念される事態もおきている。